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<院長のブログ>

 

< 道すがら >

仕事場とよぶ診療室には歩いて通っている。

たいして長い道のりではないが、途中で様々な発見があるのは楽しい。季節ごとに花や木々の色が変わり、その移ろいを実感できる。

同じ道を毎日歩くと、自然と同じ人たちと行き交うことを経験する人も少なくないと思う。もちろん、知り合いが毎朝、定時に散歩に出るときなどは「おはようございます」「だいぶ暖かくなってきましたね」など、挨拶をすることになるが、日を追って顔見知りになる人とは軽い会釈をするようになるものだ。

幾人かの顔見知りができた。小学生低学年の男の子を連れた若いお父さん、おそらく共働きかシングルファザーかは分からないが、「危ないから走るなよ~」と男の子に声をかけるとこちらに会釈をしてくれる。仕事の疲れが溜まっているのか、仏頂面をした会社員の男性はいつもコンビニの袋を手に持っている。

冬が極みになる頃、大きなお寺のようなつくりのお宅の寒緋桜がピンクの花を咲かせてくれる。色を失った季節にパッと華やぐ桜は、もうすぐほんとうの春がそこまで来ているよと知らせてくれる。晩夏、なんとなく寂しげな夕刻、そこを帰る道すがら、大使館の広大な木々から儚げにも賑々しい蝉しぐれが聞こえる。夕風はきもち涼しくて、秋の足音がするようだ。猛スピードで駆け抜ける子供を乗せたお母さんの自転車。家路を急ぐのだろうな。

日々の営みと季節の移りゆく景色は、もう何百年もこうして紡いできたものなのだろう。そこにたまたま居合わせて遭遇するひとときは、道すがらの醍醐味でもある。黄昏時、誰が袖ときとも古くは言う。心細くなるこの時刻、さらに暗くなれば、逢魔が時。暗闇の迫るころ、魔がすっと忍び込んでくると昔の人は感じた。

どんなに時代がうつろうと、ひとの過ごす時間に新旧はない。

道すがら、いろんな人といろんな時を共有して歩くのも悪くない。