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アカデミア

<細胞の経年的変化>

人は産まれてから「死」というものへ向かって歩き出す生き物と言われる。

つまり、新生児のフレッシュな組織細胞が時間とともに経年変化をする生理現象の最終地点が人の死ということになろう。その生理的変化が突然、有らぬ方向へ向かってみたり、人が生きていく中での不都合な事態に陥るのを病理、または病態というのである。近年、この生理的変化を年齢を重ねていく過程で老化と呼んでいるだけで、実態としては病理的な生命の危機をもたらすまではない変化である。細胞がフレッシュな状態から、分裂、再生を繰り返す過程を「新陳代謝」と呼ぶが、この代謝のスピードがある一定の年齢を境に急激に鈍化する。ちょうどその年齢が中高年と言われるときにあたるために老人化=老化という造語がうまれたのであろう。しかし、この変化は必ずしも中高年の人体に特異的に出現するものではなく、環境によって若年であっても突然に発現することが近年、研究と共に事実として知られるようになってきた。

その最も大きい原因は、「ストレス」である。単に経年劣化する細胞の代謝と違い、ストレスを受けることによって誘導される老化的な変化が増えてきていると言うのである。最近のアンチエイジング研究のなかで副産物的に発見されるこのストレス誘導型の細胞老化は、じつはその言葉の響きとは全く違う病態=疾患というかたちで人体に表れるのである。たとえば、パーキンソン病はアストロサイト細胞のストレス誘導型変異であり、糖尿病はβ細胞、動脈硬化は血管内皮細胞や繊維芽細胞、骨粗鬆症が骨細胞のストレス誘導により引き起こされる。

そのストレスをひとはどうやって細胞レベルで防ぐ、あるいは緩和すればいいのか?それができる定型的な方法があれば、生理的変化のまま年齢を重ねることにつながる。一つの知見が興味深い。緑茶由来カテキン(EGCG)が様々なストレス=炎症、細菌感染、ウイルス感染、糖化、重金属刺激などにきわめて有効に働き、そのストレス要因を緩和するというのである。(大阪歯科大学、川本、本田ら)唾液採取で診断ができSIPS細胞を標的にした血管老化・動脈硬化診断の方法により、古くて新しい骨代謝をふくむ「生理的変化」と「病理的変化」の境界線を今一度、明確にすることによっていわゆる老化細胞なる変化の除去までもが可能になるのではないかと期待されている。