- コラム -

/ リンクサイト

<院長のブログ>

< 機能美はシンプルなもの >

 

写真を見てもらいたい。

これは、部分入れ歯の型採りである。以前は、海藻の由来成分であるアルジネートというものを使用していたが、近年、親水性ビニールシリコンに取って代わった。

ビニール系であるが、水分との親和性に優れているため、口腔内での唾液に濡れた環境でも歯や周囲組織の状態を髪の毛一本レベルでの型取りが可能になった。そして、いったん化学反応による時間経過で固まったあとは2週間、変形しないという最大のメリットがある。歯科における材料も技術も飛躍的な進歩を遂げて、今は3Dプリンターでの成形まで可能である。

さて、こうやって型を採ったものに特殊な石膏を流し込み、原型をおこしたうえで技工操作によって、実際に患者さんにお使いいただく「歯」「入れ歯」などを作っていくのである。人間の手による作業の結果、全部が均一になるはずもなく、技工士の技術レベルの格差がハッキリとする世界でもある。ただし、その技工士の技術を最大限に引き出すだけの診療側の手腕も又、大切なのである。おかげさまで、私のところでは各治療分野に応じた技工の専門家を抱え、それぞれのトッププロたちが携わってくれるような環境にあることが、良い結果をも生み出すのだろうと思っている。どんなに歯科医が準備を重ね、歯周病治療から外科治療、プロビジョナルレストレーションを経て素晴らしい「型採り」を技工士に渡しても噛み合わせも理解出ない低い技術では、すべてが台無しなのである。私自身、開業以来、つねに最高水準を心掛けて、技工のクオリティーの一定化に苦労してきた。

その間、歯科治療という外科と内科の混在する複雑で精緻さを求められる分野での核心というものが何度か、ぼんやり見えていたが、ここにきてその本質が何となく確信になった。

それは、何十時間もかけて悩んで、試行錯誤した結果が、じつは拍子抜けするくらいに単純で、雑味のないシンプルな姿だということなのである。

解剖学、生物組織学、理工学などの基本的な理解と、それを具現化できる技術があっての話ではあるが、最終的に抽出された完成形というのは、いつもさりげなくて、シンプルな形。飾り気のない、それでいて、機能的には一切の無駄がない「美しさ」ということなのだと、ようやく今頃になってはっきりと私には理解できたのである。完成された機能は美しいのである。