<院長のブログ>
<更衣>
五月は旧暦で言えば、皐月(さつき)、夏至となります。
五月六日ごろ、立夏を迎えると、暦では「夏」ということになります。皐月の皐(さつ)という字には「水田」という意味があり、まさに田植えを始める季節ですね。
古来、日本人は暦と共に生きてきました。そして、その暦を読みながら農作を中心に暮らしてきたのです。暦は宇宙の変転、推移が天候気象に反映された統計のようなものだったのでしょう。紙におこした暦が一般の人々に読むことができなかった時代、陰陽師という所謂、気象庁のような天皇直属の部署で星や月の変化をもとに天候の予測をしていました。その膨大な統計資料から導き出された予報のようなものが、当時の人々には予言に聞こえたのでしょうし、様々な憶測や噂をよんだのだと思います。
そして、五月は衣替えの季節でもあります。私たちが伝統文化の和歌や雅楽などに際して着用する平安装束は、この時期、袷(あわせ)から単(ひとえ)に替えます。当時の人々でさえ、夏の季節の到来はあまり歓迎されたものではなく、高温多湿から生じる色々な感染症、いわゆる疫病を警戒する一年で最も嫌な季節でもありました。いまも和服で単衣に衣替えする季節感が残っていますが、実際のところ相当に暑くて数時間着ていると、汗びっしょりというものです。涼しげな色、文様、生地の工夫が平安時代からされてきました。
近年の劇的な気象変化で「酷暑」といわれるような夏の暑さが定着する現在の日本では、古来より踏襲してきた季節感と生活様式をマッチさせるのは難しくなっているのも事実ですね。装束や着物を着用する方であれば理解できますが、この時期の夏のお召しものは、涼しげに見えるけれど…… じつはお召しになっている人には、油地獄のような修行でもあります。
紗や絽といった薄手の生地のものに「更衣」して、夏の暑苦しさを少しでも涼しく見せる「やせ我慢」をするのも一興だと考えましょうか、(笑)