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<院長のブログ>

(写真:30年前の義歯治療。いまも無調整のまま経過中)

 

古今

義歯のお話しです。

最近では、予防意識が皆様に定着してご自身の歯を失い、「入れ歯」になる方も少なくなったと聞きます。

ほんとうにそうでしょうか?

少なくとも私が臨床を35年続けている今でも葉を何らかの原因で失って、やむを得ず入れ歯にする方もまだまだ、いらっしゃいます。入れ歯とは、ご自身で取り外しが出来る人工的な代用機能を指しますが、じつはその歴史はとても古いものです。私たちは何故かすぐに西洋医学がすべての先端であるかのような錯覚を持ちますが、入れ歯というものに関しては、日本は欧米よりはるかに先端を行っていました。ツゲの木をくりぬいて、患者さんのお口に合うように少しづつ削り込んで作っていました。ものを嚙む歯の部分には鋲を打ったり、象牙などの硬い材料を施していたのです。私の祖母は明治時代の人でしたが、早々にすべての歯を抜いて総入れ歯でした。当時、最先端だった蒸和ゴムを上顎の天蓋の部分に応用したすばらしい工芸品ともいうべき義歯だったのを覚えています。

先日、ある会合でご一緒になった50代の歯科医と話していたら、どうやら私の矯正治療が「それ、古いやりかたですね」と軽くあしらわれてしまいました(笑)古いも新しいもなく、どの方法が一番、適しているかだと思うのですが……..

人の身体は太古より変わっていません。変わったのは、ひとの意識であり、考え方であり、価値観でしかありません。矯正治療というのは、オンリーワンのアプローチでは解決できないものなのです。それぞれの症例に応じた最善の矯正方法があることをその歯科医はまだ、経験したことがないのでしょう。おそらく、どこかの講演を聴いて、最新・最先端はこれだ!といわれるとそれを鵜呑みにして自分も真似るだけの臨床で悦に入っているのだと思いますが、患者さんは不幸なのかも知れませんね。歯科の治療は基準はあってもすべてのケースが違う訳ですから、まさにオーダーメイド治療そのものなのです。

さて、入れ歯の話もまったく同じことです。歯の喪失本数、喪失部位、噛み方、唾液の量、質、顎骨の形態、咬合など、総合的な診断の結果で義歯治療はすすめられます。写真は、もう30年以上も前のケースですが、無調整のまま、経過しています。歯を無くすとインプラント。誰がそんな安易な方程式を唱え始めたのでしょうか?すべての患者さんが本当にインプラント手術を望み、受け容れられる状況でしょうか?簡単に言ってしまえば、「ちゃんとした義歯治療もできない歯科医の逃げ口上」でしかないように私は今でも感じています。

やがて年老いて、老人ホームに入居すると、「は~い、インプラントは痴呆が始まるとケアする方が困るので全部、抜いてきてくださいネ!」と言われるそうです。ご自分で歯ブラシも洗口もままならなくなったら、もうお終いという訳です。

「義歯でもそこそこ何でも噛めるよ」そんな言葉を私はもう35年以上、患者さんから聞きながら楽しくお付き合いさせていただいております。